アダルトチルドレンとは

「アダルトチルドレン/アダルトチャイルド(略称はAC)」(本文では以下ACで統一します。)は、本来、アルコール依存症者を抱える家庭の中で育った人たちのことを指していました。しかし今では、両親の離婚や家庭内暴力などといった、さまざまな問題を抱えた家庭の中で育ち、人間関係について様々な弊害を持った人たち全般を指すようになっています。最近では似た概念として「愛着障害」や「毒親」という言葉も生まれています。「愛着障害」はACをきちんと医療用語とした言葉で、「毒親」はACの親と思ってもらってよいと思います。また、「親ガチャ」というのもこのような毒親にあたってしまった人々の間で流行った言葉で、毒親を持ってしまった場合は「親ガチャ外れ」などと言われたりします。

ACの親は、自分のことで精一杯で、子どもに対して矛盾した言動をとったり、混乱させるような内容を言ったり、傷つけるようなことをしたりすることが多く、むやみに愛情を注ぐときもあれば、急に激しく拒絶したり、無視したりするといったような、大変不確かな対応をします。まさに毒になる親です。さらに、まだ幼い子どもに対して大人同様の責任感を要求することも多いため、「自分のことはできて当然」といったメッセージを送られた子どもたちは、そのプレッシャーに対し、大きな無力感を味わい、強い自己否定感を持つようになります。

子どもらしさが受け入れてもらえない環境で育った子どもたちは、成長の過程を急がされてしまいます。それでも必死に適応し、頑張って生活技術を身につけていきますが、成長するにつれ、人付き合いが上手くできないなど人間関係に悩みを抱くようになっていきます。そして、成人してからもストレスに圧倒され続け、自分の無力さに深く悩んでしまいます。 このように、ACとは、子どもの頃からの葛藤を克服することができないまま成長した大人たちのことを意味しているのです。

ACは、人と接するのが苦手です。私が今まで見てきた方々は大きく二つに分かれます。

一つ目は自分の存在価値を人に与えてもらうため、人を喜ばせることに全てをかけてしまうタイプです。このタイプは、強い責任感を持っていているうえに、人のことばかりに気をとられてしまうため、自分のことがおろそかになり、「自分のために何かをする」ということや「自分の我を通す」といったことに、罪悪感を抱いてしまいます。 周り人からの批評に対しても過剰に反応するため、まるで全てが「脅迫」のように感じられてしまうのです。

二つ目は自分を守るために、どんな手を使ってでも相手に勝とうとして周りを攻撃しまくるタイプです。自分の存在価値を人に勝つことで証明しようと必死になります。そのため、人を服従させ支配することでしか関係を築けないため、周りの人から嫌われることが多いです。ただし、本人はなぜ自分が悪いのかに気づいていません。

さらに、ACは普段から孤独感に悩まされ、人から見捨てられたり、感情的に突き放されたりすることに大きな恐怖を抱き、それを防ぐためなら何でもしようと試みるのですが、どうしても、子どもの頃に味わった、不安定な親との関係に似た人間関係しか保つことができないケースが多くみうけられます。破壊的なケースになると、そういった刺激が病みつきになり、せっかくうまくいくはずの人間関係も、自分から狂わせてしまうこともあります。

ACは子どもの頃から感情を抑え続けてきたことで、大人になってからは、自分自身の気持ちを感じることができなくなってしまい、愛情と同情の区別がつかなくなってしまうこともあります。その結果、自分が助けられると思う相手しか愛せなくなり、AC同士で結婚するということも決して珍しくありません。また、こうした緊張感の中で生活していると、毎日が空しく感じられ、アルコールやギャンブルに救いを求めるケースも出てきます。その他、摂食障害や引きこもり、自己破壊的な行動や暴力などの問題を抱える場合もあります。

子どもの頃に親から受けた心の傷は、胸の奥にしまい込まれてしまいます。子どもは、親の愛や保護がないと生きていけません。そのため、ACの多くは、まるで傷など受けなかったかのように、親の望みに合わせて成長していきます。言うことを聞く「いい子」、勉強のできる「いい子」、わがままを言わない「いい子」、面倒見のいい「いい子」、そうやって大人になっていくのです。

ほとんどのACは、自分が負った傷を胸の奥にしまい込んで、一人前の大人として生きようとします。心の傷のことを、実際に忘れてしまうということも珍しくありません。明るく振舞い、しっかり者として頼られる「いい人」として生きていきます。そして、ときどき感じる不安や憂鬱を、理由も分からずもてあましてしまうのです。人によっては、それが強い不安感や失望感、自己嫌悪や他人への恐怖となることもあります。人間関係や仕事もうまくいかず、どうやって生きていったらいいのかも分からなくなり、頑張ろうとすればするほど、「自分は何の価値もない人間だ」と思うようになってしまいます。心の傷は、どんなに蓋をしても消えてなくなることはなく、いろいろな影響を与え続けるのです。

ACというのは、決して誰かに診断されるものではありません。今の生きづらさの背景に、幼い頃の家庭環境の影響があるのだということを自分自身で認識したとき、初めてACとなります。 自分がACなのか迷ったときは、ACだと思うことで楽になれるのであればACだと思っていただくのが良いと思います。

ACの特徴

以下にあげるACの特徴は、ジャネット・ウォイティッツの本から取り上げたものです。本のタイトルは『ACOA(Adult Children Of Alcoholics=アルコール依存症者の子ども)の特徴』となっていますが、現在では「ACOD(Adult Children Of Dysfunctional Family=機能不全家庭に育った子ども)」も含めた。広い定義でのACの特徴として解釈される場合が多いようです。これを読むと、どれか1つは当てはまるのではないでしょうか。

■ACの特徴(“Adult Children Of Alcoholics”より)
1.常に何が正常かを推測している(なかなか「これで良い」という確信が持てない)
2.物事を最初から最後までやり遂げる事が困難である
3.本当の事を言った方が楽なときでも嘘をつく
4.情け容赦なく自分に批判を下す
5.なかなか楽しむことができない
6.真面目すぎる
7.他人と親密な関係を持つことが大変難しい
8.自分にはコントロールできないと思われる変化に過剰に反応する
9.他人からの肯定や受容を常に求める
10.自分は他の人と違うといつも考えている
11.常に責任をとりすぎるか、責任をとらなすぎるかのどちらかである
12.過剰に忠実である。無価値なものと分かっていてもこだわり続ける
13.衝動的である。「他の行動も可能である」と考えずに1つの選択肢に自らを閉じ込める
重要なのは「まず自分自身を知る」ということです。自分を知れば何に苦しんでいるのかが分かるでしょう。そこから少しずつ、自分が生きやすいと思える方向に変えていけば良いのです。完全な人間なんて1人もいません。無理せずできるところから理解を深め、つらい人生を変えていきましょう。

ACの原家族での役割

ACの子どもの頃の「役割」として、よく以下の6つの分類が用いられます。必ずどれか1つに当てはまるというわけではなく、複数の役割を合わせて担うケースもあります。あなたに当てはまるものはあるでしょうか?   

■ヒーロー(英雄)
問題を抱えがちな家族から世間的に評価される子どもが産まれると、両親はその子のさらなる活躍に熱中します。その結果、冷め切っていた2人の関係が、一時的によくなることがあります。そうなると、子どもは一層頑張ろうとしますから、ますます一芸に秀でる「ヒーロー」のような存在になっていきます。
  
■スケープゴート(犠牲の山羊)
「ヒーロー」のちょうど裏返しに当たるのが、「スケープゴート」です。一家の中の「ダメなもの」を、全部背負うような子どものことを言います。家族に、「この子さえいなければ全てが丸く収まるのではないか」という幻想を抱かせることによって、その家庭の真の崩壊を必死に防いでいるのです。
病気するといえばこの子、怪我するといえばこの子、学校に呼び出されるといえばこの子、近所の人が怒鳴り込んでくるといえばこの子。本当は、この子が家族に代わって「悪役」を引き受けているのです。
   
■ロスト・ワン(いない子)
「ヒーロー」や「スケープゴート」のようには目立たずに、「いない子」という存在の仕方をする子どものことを言います。「壁のシミ」とも呼ばれ、家族が一緒に何かをしようとするときには、いつもいません。初めのうちはいたかなと思っても、フッとどこかへ行ってしまいます。そして、その子がいなくなったことに誰も気づきません。自分の存在を隠すことで、家族内の人間関係から離れ、自分の心が傷ついてしまうのを、必死に免れようとしているのです。  
 
■プラケーター(慰め役の子)
「慰め役の子」が慰めるのは、一家の中でいつも暗い顔をし、ため息をついている親、多くの場合は母親です。夫の飲酒や暴力のことで頭がいっぱいになっている母親の肩に手を置いて、「どうしたの?」と優しく尋ねたりします。特に末っ子がこの役割を担うケースが多いようです。
  
■クラン(道化役の子)
例えて言うと、慰め役の亜種です。たとえば、両親の間で言い合いが始まり、家族の中に緊張が走るようなとき、「クラン」の子は、突然トンチンカンな質問を浴びせたり、歌い出したり踊りだしたりします。この子は普段から、家族の中でペットのような存在にされていて、一見、本人もそれを楽しんでいるかのように思えます。しかし、道化の仮面の下の本当の顔は、とても寂しいのです。
  
■イネイブラー(支え役の子)
「支え役の子」は、小さい頃から他人に世話を焼き、いつもクルクルと働きまわっています。「偽親」とも呼ばれ、一番上の子どもがこの役割を担うことが多いようです。しかし、長子が「ヒーロー」や「スケープゴート」をやっていて忙しい場合は、その下の弟妹がこの役につくこともあります。母親に代わって幼い弟妹の面倒をみたり、ダメな父親の役割を補完して、父親の代わりをしたりします。

ACの回復

以下に、ACの回復に欠かすことができないと思うことを、ごく簡単にまとめました。これ以外にも大切なことはたくさんありますが、一番の基礎となる部分として、参考にしていただければ嬉しく思います。一度に全てを行うのは大変難しいことと思いますが、少しずつできるところから自分の中に取り入れていくことで、より楽に生きられるようになっていただきたいと願っています。
  
1.あなたが変えられるものはあなただけです。
親や周りの人々を変えたいという気持ちはわかりますが、残念ながらこれは不可能です。自分が変えることができるのは自分自身だけなのです。まずはこのことを覚えておいてください。

2.自分の人生を踏み出すために「境界線」を設けましょう。
 自分と他の人は違う生き物であるということを理解することが非常に大切です。たとえば、自分には簡単にできることが他の人にはとても難しいことだったり、反対に、他の人には簡単にできることが自分にとっては難しかったりすることあります。相手が自分と同じようにできないからといって、そのことに腹を立てるのはいいことでしょうか。反対に、もしも相手がそういうことで怒っているなら、あなたはその人を相手にしなくていいのです。その人は、自分と他の人との区別がついていないのですから。

3.人は、お互い常に対等な関係であるということを忘れないでください。
確かに、会社や学校などにおいては、先輩・後輩、上司・部下などの上下関係があります。でも、人として意見し合ったりするときは、対等でいいはずなのです。このことは、親子関係にも当てはめることができます。相手が年上だろうと年下だろうと、お互いに対等の関係として向き合うこと、そして、お互いを尊重し合うことが大切なのです。

4.自分の選択に責任を持ちましょう。
人は、何か都合の悪いことが起こると、ついつい何かのせいにしてしまいがちです。ですが、ここで少し考えてみてください。たとえ嫌々やることになったことであっても、最終的に選んだのは自分自身ではないでしょうか。確かに、最初から選択肢がなく、その1つを選ばざるを得ないという場合もあります。しかし、いくら他の人のせいにしても何も変わりません。自分の選択に責任を持つということを意識するようにしてみてください。

5.自分の物事の捉え方を変えていきましょう。
ACは幼い頃の環境の影響で、物事の捉え方が歪んでしまっています。その捉え方のために、自分で自分を苦しめることが多いです。その苦しめている捉え方にまず気づき、変えていくことで生きることが楽になっていきます。あまりにも慣れ親しんだ捉え方なので、自分一人ではそのことに気づくことは難しいこともあると思います。一人では難しいと感じたときはカウンセリングを受けてみるのも良いと思います。

6.自分のことを好きになってください。
言葉で言うのはとても簡単ですが、実際にどうすればいいのかを見つけることはとても難しいことと思います。具体的な方法としては、自分の好きなところ、もしくはいいと思えるところを見つける度に、自分を褒めていってください。少しずつ、自分のことがそこまで嫌ではなくなってくると思います。1日1つでいいのです。自分のプラスの部分を探し、それを見つけることができたことを褒めてあげましょう。